社長の独り言
● 清水の舞台から飛び降りると…

 飛び降りたのは私ではない。鉄道ポスター収集家の中村俊一郎氏だ。 「長春駅の雑踏」というタイトルの満鉄ポスターの原画を購入した時のご本人の心境である。金額はお聞きしなかったが、会社を経営されていて、20年来、鉄道開業から戦前70年までのポスターを収集していらっしゃるという。2ヶ月前、ある会合でたまたま『満鉄会報』というB5版の冊子の表紙が目に止まった。その新年号の表紙を、件のポスターが飾っていた。それまでは財団法人満鉄会も、発行されている『満鉄会報』という冊子の存在も知らなかったが、ポスターの載った表紙を見た途端、閃くものがあった。左脳はマヒしているかとあきれるほどだが、それを補うように、時々右脳が電光石火のごとく働いてくれる。


  会社設立33年を記して企画、協賛した「革命とファッション」展に、白系ロシア人と日本との接点がほしいと思っていた矢先だった。中村氏が購入した満鉄ポスターは、まさに1930年代前半の日本、ロシア、中国のファッション風俗画であった。原画が見たい、そして叶うことなら展覧会に特別展示させてほしいと思い立ち、市谷の満鉄会の事務所を訪れた。天野理事さんから、中村氏に主旨を説明していただき、その後、美術館から正式に展示の依頼を申し入れた。中村氏は快く受けてくださり、わざわざ沼津から多摩センターの美術館まで運んでくださった。原画は上部に虫くい穴が多少あるものの、折り痕もなく、絵の中の女性たちのコートの鮮やかなグリーンや、肌の色は瑞々しく美しい。長春駅の雑踏の中にいるような錯覚を覚える。

 清水の舞台から飛び降り、満身創痍したといわれる中村氏だが、傷はやがては治るであろうし、清水寺の舞台脇の急坂を登れば、ふたたび舞台に上がることができる、ということを今度お会いした折にお伝えしようと思う。

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     「長春駅の雑踏」 伊藤順三画:ホーム左の列車は満鉄、右は東支鉄道(ロシア)


 

 


  

 

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