街中の坂道を沿うように走る川の両岸の桜が散った。
サンビーチ公園のツツジがそろそろ咲きはじめるだろう。
今年は時期を外さず、見に行こうと思う。
1月、地元中心の7、8人の新年会で隣に座した市の観光課の女性課長Aさんが話しかけてきた。
「中尾さん、ロシアビジネスをしているのよね。サンビーチにソチ市の市長が植樹したツツジがあるけど知っている? 今年からサンビーチ公園の整備工事がはじまるけれど、あれは残しておきたいね。当時の関係者はほとんどいないので撤去なんてことにならなければいいけど」。
ソチ市といえば2年後、2016年の冬季オリンピックの開催地。黒海屈指のリゾート地に世界の目が注がれる。
翌日、デジカメ片手にサンビーチに植樹されているというツツジの撮影にでかけた。
サンビーチは徒歩でも、車でも日常的に通行しているが、ソチ市の市長さんが植樹していたという話は聞いたこともなければ、目にしたこともなかった。有名な「お宮の松」の西側だという。
2、3度行き来してやっと見つけた。
濃い緑の葉が地面からこんもりと茂った大振りのツツジだ。
正式名はオオムラサキツツジというらしい。
「ロシア(旧ソビエト連邦)ソチ市長来熱海記念植樹 1973年5月22日」と脇のプレートにある。
1973年といえば、私が大学卒業した頃か。大阪万博の3年後だ。
A課長の協力で、図書館の資料室で当時の熱海新聞の記事を調べてもらう。
驚いたことには、ソチ市長が熱海来訪の数ヶ月前、ソチ市側から熱海市と姉妹都市の提携をというラブコールをもらっていたことがわかった。ソチ市長の来訪は、最終返答を求めてのものだった。来訪日を控え、失礼のないようどのような回答(断りの)をなすべきかという熱海市側の戸惑いの記事が連日掲載されている。
結果として「NO」としたが、市側はロシア(ソ連)の機嫌をそこねないよう旅館で1泊してもらい、最大限の歓待をして首尾よく帰国してもらった様子。
熱海市の関係者一同、安堵した様子が記事からも手に取るようにわかる。
ソ連は共産国家だからとか、社会党議員から持ちこもれた話だからというのが、断る理由だったようだ。
40年後の現在、社会党も霧散していれば、共産国家ソ連も消滅している。
もし、姉妹都市提携をしていれば、オリンピック開催に便乗して熱海市を世界に売り込める最大のチャンスであった。
サンビーチのオオムラサキツツジは、政に携わる人たちの世界観の鈍さの象徴として、残しておくべきだと思う。