社長の独り言
● チューリップの約束

チューリップが咲く季節になると、1人の女性の顔が浮かんでくる。

 

アレクサンドラ・ブラターエヴァさんはロシア人には馴染みのテレビの人気ニュースキャスターであったが、カルムイク自治共和国という自身の出身地の政治家に転身した。

 

人口30万弱、ロシアの中で仏教を柱とするただ一つの国という特徴のほかは、産業的にこれという資産もない小国である。標高ゼロ地帯が広がり、カスピ海に面している。

 

1989年のクーデターと98年の経済危機を乗り越えた2000年、「ロシア大都市圏の中間層」という調査を請け負った。この時、定点調査として、6名ほどの様々な分野のアッパーミドルのロシア人にインタビューを試みた。その中の1人がカルムイク共和国の政治家、アレクサンドラ・ブラターエヴァさんであった。

 

テレビのキャスターという華やかな職業から、収入も減る不安定な政治家に転身した理由を尋ねた。「私たちは仏教徒です。キャスターという職業は虚業で、いずれ空しくなる。自分の生まれた国のために身を捧げたい。」というような、かなり哲学的な回答であったと思う。ブリヤート人独特の直線的な切れ長の瞳の奥に、志を掲げて進む人の野心の光を見た思いがした。約束の時間を越えて、家族のこと、おしゃれのこと、趣味のことなどかなり長い時間を過ごしてしまった。前年に沖縄サミットがあり、当時のプーチン大統領に随行して来日の経験があるとのこと。「日本にもテレビキャスターから転身した小池百合子さんという女性政治家がいます。」というと興味を持ったようである。

 

「カルムイクに来てください。何もないところですが、よいところです。チューリップの季節がいいでしょう。カルムイクの辺りはチューリップの原産地です。野原一面にチューリップが咲きます。」別れ際、握手しながら「ぜひ、行きます。」と応えていた。約束は未だ、果たされていない。チューリップの咲く季節になると、忘れかけていた約束とともに、彼女の確かな存在を思い出す。

 

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